こだわりのものづくり

川柳つくし。彼女は、落語という一人芸の世界に生きる数少ない女性落語家の一人です。師匠の川柳川柳さんのおかみさんが俳句の名手で「川に柳があるのなら、つくしもあると絵になる」という一言で決定したとか。古典落語と新作落語という2つのタイプがある落語の世界で、自作の新作落語を中心に演じています。いま、前座・二つ目・真打とあるプロの階級の二つ目。数年後の真打昇進を目指して、真に納得のいく新作落語へのチャレンジを続けるつくしさんに、落語との出会いから語っていただきました。
新作落語との出会い

落語との出会いは、大学の3年の頃です。ゼミを選択する際に、近世文学を勉強しようと興津要教授のゼミに入ったら、第一声が「オレについて寄席に来い、単位はやる。」と、それが出会いでした。後で知ったのですが、落語研究家としても有名な先生だったんですね。  連れて行かれた寄席でかかるのはたいてい古典落語。古典落語は男が練り上げて来た芸であり、噺の設定も男中心の江戸時代。男がやるものだと思っていました。  就職してから、自分の思ったことや考えた噺を自分の言葉で語る新作落語に出会い、これなら女でもやれると思いました。それからですね、新作落語にのめり込んでいったのは。「自分の言葉で話していいんだ!」と思えたことがうれしくて、古典新作問わず、面白そうな会は片っ端から通いました。  そこで、一流の噺家さんの新作落語に遭遇して、「落語って、ここまで観客の心をとらえることができるんだ」と胸が熱くなる経験もしました。新作の中でも、春風亭昇太師匠のような親しみやすい噺もあれば、三遊亭円丈師匠のような魂を込めて語られる落語もあるんです。そんな新作の魅力にひたるうちに、いつの間にか「噺家になりたい」という思いを抑えることができなくなっていました。

噺家の入り口へ

 師匠の川柳川柳と高座を通して出会ったのもそんな頃です。ある時、その川柳の高座で、当時日本中を騒がせていたオウム真理教事件について、捜査費用捻出方法のアイデアを話していたんですが、実は私もそれと殆ど同じことを前の夜、友達に話していたんですよ。「このジイさんは私と同じセンスをしてる!」と思い、入門のお願いに行きました。師匠もやはり最初は落語は男がやるものだと言っていましたが、男の真似をするのではなく、女ならではの噺をやるならいいだろうということで、弟子に取ってくれました。 落語はそれまでまったくやったことはありませんでしたが、やりたいことがあるのにやろうともせず、年を取ってから「あのとき落語家になっていればよかったな」などと後悔したくなかったのです。

真打に到達するまでの課題

 プロの噺家になってからは、基本と思ってもちろん古典落語も稽古しています。噺家としての基本の型をしっかりと身につけたいんです。  2000年に二つ目になりましたが、昇進して以来、私には新たにチャレンジする目標が生まれました。それは“幅広い世代に受ける噺(落語)の創作”です。 進行係的な仕事もあった前座時代と違って、二つ目になると、まずプロとしてお客様にウケる、ということが要求されるんですね。落語を聴きに来るお客様はお年寄りが多く、そうした年配の方にとっては古典落語の方が親しみやすいと思います。でも私は「自分の言葉で話したい」と思ってこの世界に入ったので、自分の言葉で語る 新作落語でぜひ、お年寄りも含め多くの人に楽しんで頂きたい。そして、いつか真打になった時のお披露目で、寄席に来られたお客様全員に喜んでいただける新作落語でトリ(寄席の最後に出る芸人)を取ること。それができればいいと思っています。  この目標を手にするために、いろんな世代、いろんな環境で暮らしている人たちとできる限り会うようにしています。これは、「自分の常識は決定的なものではない」という考えから、知らない世界を数多く経験したいと思っているからです。やってみないで「分からない」と言うのは違うと思うんです。だから「まずやってみて探す」ように行動しています。嫌なことも、失敗も新作落語の収穫になりますから。

自分ならではの噺へのチャレンジ

 “幅広い世代に受ける噺の創作”はもちろん目標ではありますが、最大公約数的な内容には興味が持てないんです。やはり一人芸ですから、私が演じて面白いことをやっていきたい。核になる部分、これは自分がやらなきゃ、という原点は失いたくありません。それをいかに“幅広い世代に受ける噺の創作”に結びつけていくか。そのために、生活の中で面白いと感じたことは、忘れずに携帯にメモします。ふだんの生活のすべてが落語に結びついている感じです。  これからも、私にしかできない噺をやっていきた い。あいつでなければ、と言われるような、取り替えのきかない噺家になりたいと思っています。




Profile
川柳つくし(かわやなぎつくし)
本名:熊井佳奈子。千葉県市川市出身。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。 出版社勤務を経て1997年3月、川柳川柳(かわやなぎせんりゅう)に入門。2000年11月に二つ目昇進。自作の新作落語を中心に、寄席や落語会で活躍する。
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